ベトナムで起業・会社設立の方法と流れについて

ベトナムはASEANの中でも高度な経済成長を遂げており、日本企業の進出も増加傾向にある国です。東南アジアにおいて日系企業がまず目を向けるタイでは近年急激に労働賃金が上がっており、それに比べるとベトナムはまだ低賃金労働力であることや、ODAによるインフラ整備等、外資の製造業誘致が活発化していることなどがその背景にあります。ベトナム進出の際の、事業形態や、手続きとその流れについてご紹介します。

有限責任会社(LLC)

日系企業などの外資系企業がとる最も一般的な事業形態が有限責任会社です。かつて日本にもあった有限会社で、この責任とは、出資者の出資をした財産の範囲内であるということを指します。

一人有限責任会社

出資者が一人の場合の会社設立形態で、個人でも法人でも会社設立可能です。日本法人の出資による設立の場合、必然的に外資100%の子会社となるため、外資規制のない業種での進出の際に適しています。

二人有限責任会社

出資者が2~50人の場合で、日本法人の多くに見られるのがこの設立形態です。外資規制で資本比率などの規制がある業種の企業がこの法人形態をとることが多いようです。

株式会社(JSC)

ベトナムの株式会社では、株主が3人以上必要です。資本金の増資、減資が可能で、株主は株の譲渡を自由に行うことができます。有限責任会社に比べ、株主つまり出資者が3人以上必要であること、その人数が多い場合経営判断に時間がかかり、費用もかかるなどのデメリットがあるため、ベトナムでの株式上場を目指すわけでもない限り、日本企業がこの事業形態を選択することは多く見られません。

日本においては、たとえ外資100%であっても「日本の株式会社」の扱いになりますが、ベトナムでは,日本など外国の進出企業が会社設立のために資本金を拠出することは「投資」の扱いとなります。このため、日本人を含む外国人や外国企業は「外国投資家」として位置づけられるため、投資法による規制、「外資規制」を受けることになります。外国投資家は、投資登録証明書(IRC)を取得しなければなりません。

規制業種に関してはジェトロの外資に関する規制をご参照ください。

外資に関する規制

会社の事業形態の選択、外資規制の調査などが終わり、会社設立の手続きに移ります。

投資登録証明書(IRC)の取得

外資系企業がベトナムで会社を設立するために、まずは投資登録証明書(Investment Registration Certificate = IRC)を取得しなくてはなりません。これは、外資系企業だけに適用されるもので、管理委員会または地方人民委員会が発給機関となります。申請を行い、受理された書類に不備がなければ、15日以内に投資登録証明書が発給されます。

企業登録証明書(ERC)の取得

IRC取得の後、企業登録証明書(Enterprise Registration Certificate = ERC)を取得します。記載される企業固有の登録番号は、税コードとして扱われます。取得後、ベトナム国家ビジネス登録パネルウェブサイトへの登録を当局に依頼します。

会社の印鑑作成

ベトナムでは日本と同じように会社の印鑑が必要です。社名、企業コードを記載します。印鑑作成後、ベトナム国家ビジネス登録パネルウェブサイトへの登録を当局へ依頼し、登録完了後に「印鑑サンプル掲載通知書」が発行されます。

銀行口座の開設

会社設立をしたら、2種類の法人口座を開設する必要があります。資本金を振り込む「資本金口座」と、通常の支払いや売上の入金などに使う「経常口座」です。これらは別々の銀行で開設することが可能です。通貨はベトナムドン、USドル、日本円の3つから選ぶことができます。

資本金口座は、日本との連携や円建てや日本人スタッフ常駐の安心感などから日系の銀行を選ぶケースが多いようです。経常口座は、現地サプライヤーや、従業員の給与の支払いに使うため、ベトナムローカル銀行の口座を開設することがほとんどで、手数料が安いという利点もあります。

まず会社設立後に資本金を資本金口座に振り込みます。資本金は90日以内に振り込まなくてはなりません。もし遅延した場合、罰金もしくは設立取消等の処分があります。

資本金口座の次に経常口座を作ります。ベトナムドンでの仕入れ、給与の支払いなどに使う経常口座は、ベトナムドンで、ローカル銀行の口座を作ることがほとんどです。

ベトナムにはどのような銀行があるかについて、詳しくまとめたこちらの記事を御覧ください。

資本金額について

ベトナムでは会社設立の最低資本金額に関する規定がありません。保険・銀行・不動産などの業種は特別に最低資本金が定められていますが、日本と同じように少額でも会社設立が可能です。しかし、あまりに少ない資本金はIRC取得の際に通らない場合がありますので、業種や管轄区によって異なりますが、一般的に1万USドル程度の資本金が目安といわれます。

ライセンスフィー(法人事業税)の支払い

企業登録証明書(ERC)の発給を受けた月に、初年度の税額に関して管轄の税務機関に納税を行います。支払いは設立後と毎年で、資本金の金額によって税額が以下のように異なります。

100億ドン超:300万ドン

100億ドン以下:200万ドン

支店または経営拠点など:100万ドン

オフィスの賃貸借契約と会社登記について

投資登録証明書(IRC)取得の際に、オフィス事務所を確保する必要があります。IRCの発給を申請するにあたり、賃貸借契約書の添付が必要とされているためです。クライアントや工場に近い場所、または登記可能な住居兼オフィス、事務所での作業を必要としない場合は登記可能なバーチャルなども考えられるでしょう。

VATインボイス(通称・レッドインボイス)

ベトナムでは、公式領収書であるレッドインボイスが損金算入するために必要です。ベトナム国内での有形・無形問わずサービスの提供の際にVATインボイスを発行することが求められます。淡い赤色の紙面であったためこの名前がついていますが、2022年7月からは全ての企業が電子インボイスのみとなっています。サービス提供側からは請求書であり、受け手にとっては領収書となるこのレッドインボイスは、ベトナム語で記載しなければならず、必要な情報に一字でも誤りがあれば認められないため注意が必要です。

日本から海外への進出を計画され、ASEANに目を向けている日系企業や個人の方にとって、多くの場合日本人の生活環境が整ったタイに目が行くと思いますが、近年労働賃金や物価の上昇から、以前ほど利益を生み出すことは簡単でなく、アジア最後のフロンティアといわれたミャンマーは、2021年の国軍によるクーデター以降情勢が不安定化しています。そんな中、日本に友好的で、高度な経済成長を遂げているベトナムは有力な進出先です。社会主義国であり、東南アジア独特の文化を持ち、日本とは異なる要素が多分にありますが、それ以上に大きな可能性を秘めた魅力のある国といえるでしょう。新たなる挑戦としてベトナムを選ぶ方々への情報提供の場になればと思います。

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